2014年6月8日日曜日

人工知能は計算機ではない 「認識機」だ Recognizer, Speculator and Artificial Life

未来技術に関するブログを書いていると、Computerという言葉に対する違和感が日に日に増していく。Siriの延長線上にあるようなエクスパートシステムであっても、フォン・ノイマン型、つまりメモリからプログラムを読み込んで実行していくタイプであれば、Computer(計算機)と呼び続けてもよいだろう。だが、我々が未来のコンピューターに求めている機能は計算だけではない。人間のように、あるいは人間以上に思考し、人間の幸福追求をサポートして欲しいのだ。とはいえ、それらの優れた未来の機械を人工知能(Artificial Intelligence)と大ざっぱにひとくくりにしてしまうのも乱暴だ。SF映画では良く、雷に打たれたロボットが突然意識を持ったりするのだが、実際には理想の形態に達するまでに、少なくとも3つの技術的パラダイムシフトをたどることになるだろう。

最初のステップは既に進行中で、「Recognizer(認識機)」とでも呼ぶべきか。従来のコンピュータが事前に与えられた膨大な知識を基に判断するトップダウン方式であったのに対し、これは幼児の状態で生み出され、自ら学習を進めていくボトムアップ方式とも呼ばれる。iRobot社のロボット掃除機ルンバ(Roomba)が、壁に激しく衝突しながら部屋の構造や障害物を学習していくのはボトムアップ方式であるがゆえだ。ただ、ルンバは掃除しかできず汎用性がない。Recognizerたりうるためには、認識対象として物体の形状だけでなく、素材・堅さ・重さ・動きやすさ・脆さといった特徴や、空間・時間・言葉・生命といった目に見えない概念も認識できなければならないし、他の概念との関連性によって対象の「意味」を認識しなければならない。
実際、人間の脳の主な役割はパタン認識なのだ。1000億の脳細胞が常に新たな情報や経験をもとに脳神経のつながりを再構成し続けている。おそらく従来のコンピュータでは実現できず、ニューログリッド(Neurogrid)のような新たな構造が必要だろう。

しかし学習するだけでは、単に「買ってすぐつかえないコンピュータ」に過ぎない。未来の危険を回避したり、より効率化を進めるため、仮説を立て、検証できる能力が必要だ。それが2番目のステップでり、推論機(Speculator)とでも呼ぶべきものだ。最初は「人類をあらゆる自然災害から守れ」とか「より高い温度で超伝導状態になる材料を探せ」といった具体的な指示に基づいて試行錯誤することしかできないが、次第に曖昧で大ざっぱな指示(今で言う、あいまい検索)にも反応できるようになるだろう。そのためにはいっけん関係の無い概念どうしを関係づけて結果をシミュレートする必要があるが、関係のある関係よりも、関係の無い関係のほうが遙かに数が多いわけで、それらの組み合わせの数となると、天文学的という表現では足りないほどの数に達する。したがって現実的に、自己増殖(self-propagation)機能を併せ持ち、並行処理能力を指数関数的に増大させていく必要にかられるだろう。

ここまでくれば、人間が一般的に機械に求めている能力は備わったと言えるし、カーツワイルらが予言する技術的特異点にも達するかもしれない。人間の指示に従っているだけなので機械に過ぎないのだが、機能としてはすでに思考力を持っており、性能は人間の脳を凌駕している。これを機械から生命(Artificial Life)に変えるには、単に最優先命令(Prime Directive)を変えるだけでよい。「自分の幸福を追求しろ」と。